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神戸地方裁判所 昭和28年(行)9号 判決 1955年6月17日

原告

(三〇名選定当事者)中山三男

被告

兵庫県知事

主文

原告の本件訴訟をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

訴状及び昭和二十八年十一月十二日付請求の趣旨並に原因補正書によれば、原告の本件請求の趣旨は、

「兵庫県武庫地方事務所長が昭和二十七年八月十八日別紙選定者目録記載の三十名に対して課した昭和二十七年度事業税賦課処分並にこれに対する右三十名の再調査請求棄却処分は何れも無效であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求めるにあり、その請求の原因の要旨は

「兵庫県武庫地方事務所長は昭和二十七年八月十八日別紙選定者目録記載の三十名(以下単に三十名という)に対して、昭和二十七年度事業税を賦課する旨夫々徴税令書を交付してきた。

ところで右事務所長が令書を発するに当つては三十名がそれぞれ先に提出した昭和二十七年度事業税申告書を基本とすることなく、又実際に三十名の事業所得を調査することもなく同人等の昭和二十六年度所得税額算定の規準とされた同年度総所得額を基本として漫然とこれを昭和二十六年度における三十名の事業所得と認定した上課税したものである。しかしながら事業税は国税たる所得税とは全然別個の独立した地方税であつて、所得税の附加税ではなく、その課税方法も所得税の賦課とは別個独自の調査に基いてなさるべきものである。さればこれを無視した前記賦課処分は明かに憲法の定めた地方自治制度を破壊し且地方税法に違反するものである。三十名はかかる賦課処分を受けたので前記地方事務所長に対し夫々再調査の請求をしたが、一回の調査もなく棄却処分に付された。よつて本件賦課処分並に再調査請求棄却処分は何れも重大且明白な瑕疵があるから、その無效の確認を求めるため本訴に及んだ。」というにある。

しかして原告が訴状に貼用した印紙額は金三百十円であつて、これは原告の主張によると、本件訴は三十名に対する被告の認定した課税所得額並に賦課税額の適否を争うものではなく(その額を正当と認めるものでもない)、前記のような違法な手続に基いてなされた各処分の無效確認を求めているのであるから、非財産権上の請求であつて訴額の算定しえないものであり、従つて民事訴訟用印紙法第三条第一項により本件訴訟物の価額を金三万一千円とみなして相当印紙を貼用すれば足りるとの見解に因るのである。当裁判所は、訴訟物の価額を金六十四万八千六十円として、これに応ずる印紙金四千二百三十五円を命令書送達の日から二週間以内に追貼するよう選定当事者たる原告に命じ、この命令書は昭和三十年四月二十八日送達されたが、原告は右期間内に命ぜられた印紙額を追貼しない。

理由

本件訴が原告の主張するように、訴訟法にいわゆる非財産権上の請求であるかどうかについて考えてみる。

本訴において原告は三十名の選定当事者として、兵庫県武庫地方事務所長が右三十名に対して課した昭和二十七年度事業税の賦課処分並にこれに対する再調査請求の棄却処分が無效であると主張し、その確認を求めているのである。かかる租税に関する行政処分は、固より経済的利益を内容とするものであつて、原告の請求が認容されるときは三十名は夫々賦課された事業税の納付を免れ、財産的な利益を得るわけである。そうするとこれを訴訟物とする本件訴訟は経済的利益を内容とする法律関係に関するものであるから、訴訟法にいわゆる財産権上の訴として取扱われるのが当然であるから、これを非財産権上の訴訟として民事訴訟用印紙法第三条第一項により訴額を金三万一千円とみなすことは正当でない。本件訴訟が財産権上の訴であるとすると、次にその訴額が問題となる。

ところで、本件訴については三十名がかような行政訴訟においても訴の主観的併合(共同訴訟)、延いて選定当事者制度が利用できるという前提の下に、その請求を併合し原告を選定当事者として訴を提起しているのであるから、かかる前提をとる以上その訴額は民事訴訟法第二十三条第一項に則り、各請求すなわち三十名各自の請求の価額の合算額というべきである。そして請求の価額は原告が訴をもつて主張する利益(請求としての法律関係の存在又は不存在について原告が有する直接の経済的利益)を基礎として算定すべきであるところ、本件訴は被告の認定賦課した税額を直接争うものではないにせよ、とに角手続に瑕疵があるとしてその処分の無效確認を求め、結局被告の認定賦課した税額の納付を免れる一方、各自の申告した金額の納付をするというのでもないから、右三十名の主張する利益は、前記の各事業税額に他ならない。しからば本件訴の訴額は右事業税額の合算額であり、本件記録中の兵庫県総務部税務第一課長吉田正雄提出の事業税税額表によれば、その合算額は金六十四万八千六十円であることが認められるから、本件訴額はまさに右金額であると謂わねばならない。

よつて右訴額に基いて原告に対し、相当印紙金四千二百三十五円の追貼を命じたところ、原告はこれに応じないので、本件訴は不適法にして、その欠缺が補正しえない場合であると認めてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 中村友一 桑田連平)

(別紙目録省略)

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